亡き母から解放された山根さんのお話2
【花咲く物語 2】
亡き母から解放された山根さんのお話 2 前回の続きから
注)当院の患者様から同意を得た方のお話です。治療の本質には影響がない程度で、個人情報が特定されないよう適宜設定を変更してあります
母親からの一方的な拒絶は、いつの間にか山根さんが母親を拒絶したという話にすり替わっていて、会うたびに私を見捨てた冷たい子ね、と恨みごとを聞かされ、付き添いの病院では「長らく音信不通だった娘です」と看護師に紹介されたそうです。母親の担当医に「これからは親孝行してね」、といわれると涙が溢れました。
ほどなくして、山根さんは治療費を父親に要求するように母親から頼まれるようになりました。子供のころややっていたメッセンジャー役をふたたび担うことになったのです。母親と不仲の父親は当然快く出してくれるわけでもなく、俺はただの金づるか、と怒りを爆発させて、板挟みになって苦しい思いをするようになりました。
病状が日々悪化する母親は、私はもう死ぬんだから汚い言葉もどんどん使っていくわ、と山根さんを容赦なく傷つけるような言葉を吐くようになりました。
母親から連絡が来る前は、拒絶された悲しみはあったものの、夫と穏やかな生活を送り、そろそろ子どもも欲しいねと将来に向けた話し合いをしていましたが、交流が再開してからは、頻繁な母親からの呼び出し、付き添い、暴言でほとほと疲れてしまいました。自分の人生の生活を考える余裕は一切なくなったといいます。
「母と会うと辛いのでもう会いたくない」「でもこのまま何もしないで母が死んだら後悔するんじゃないか」と揺れ動き、自分も何がつらいのかわからなくなり、当院とは別のクリニックでカウンセリングを受けるようになりました。
ところが、冒頭の「あなたはどうしたいんですか」と何度も聞き返され、山根さんの混乱はいよいよ深まります。どうしたらいいか、どうしたいのか自分の気持ちもわからなくなっていたのに、おうむ返しではぐらかされたように感じたのです。
(次回へ続きます)