亡き母から解放された山根さんのお話1
【花咲く物語 2】
〈登場人物〉 |
山根さん 30代女性 既婚 |
〈困りごと〉 |
亡き母が重くて苦しい |
〈治療期間〉 |
1年 |
〈症状が出てから初診までの期間〉 |
3年 |
〈治療法〉 |
薬物療法・EMDR |
〈現在のようす〉 |
新しい命を授かり、母にとらわれず自分の人生を考えられるようになった。 |
(注)当院の患者様から同意を得た方のお話です。治療の本質には影響がない程度で、個人情報が特定されないよう適宜設定を変更してあります
「あなたはどうしたいんですか、と逆に聞かれて禅問答みたいになってしまって、ますますわからなくなってしまったんです」
寒い冬の日に山根さんは当院を訪れました。初診時の山根さんは混乱していて、どうしたらいいんでしょう、と何度も聞いていました。
山根さんは商社に勤める多忙な父親と専業主婦の母親に育てられました。5歳下の弟は、重度の知的障害で身の回りのことも一人でできず、常に見守りが必要な状態で両親は弟のことでよく言い合いになっていました。母親からは不在がちで頼りにならない父親の悪口を家にいる間じゅう聞かされていました。弟が不憫なのと、母親に苦労や心配をかけたくないという思いで、物心ついたころから山根さんは家族の空気を読んで行動するようになっていました。
お伺いすると、母親が末期がんになったことで、7年間断絶していた交流が再開したのですが、死期が近づく母親に対してどう接したらよいかわからなくなった、というのです。
山根さんが社会人になって家を出ると、突然母親から拒否されるようになり、初任給で買ったプレゼントや手紙を送り返されるようになりました。
それまではむしろ、親友のように何でも話していた母親からの冷たい仕打ちに、訳も分からず山根さんは何度も泣いたといいます。結婚の報告にもおめでとうの一言もなく無反応でした。
それでも、どこかでまた母親と以前のように仲良く打ち解けることを望んでいたのでしょう。7年ぶりの母親からの一報はとてもうれしかったといいます。
ところが、実際に交流が再開すると、山根さんが期待していた淡い希望は無残にも打ち砕かれます。
(次回へ続きます)