亡き母から解放された山根さんのお話 3
【花咲く物語 2】
亡き母から解放された山根さんのお話 3 前回の続きから
注)当院の患者様から同意を得た方のお話です。治療の本質には影響がない程度で、個人情報が特定されないよう適宜設定を変更してあります
山根さんはこうやって駆け込むように当院にいらっしゃいました。
「生み育ててくれた親には感謝しないといけない、親は大切にしないといけない」
こんな考えがご本人にも前任のカウンセラーにもあったのかもしれません。
一般的にはこういった考え方受け入れられやすいでしょう。
ただ残念なことにこどものこころをむしばみ、利用し、破壊する親もいるのは事実です。
子供の頃から長らく家庭で重い役割を持たされていた山根さんには、外来の短時間の診察や薬の調整だけでは十分にケアができないと判断し、EMDRという技法を持った心理師のカウンセリングを導入することにしました。
ただあまり気分の落ち込みが強いとトラウマに触れる心理療法に耐えらず、カウンセリングが始まったとたんに具合が悪くなることがしばしばあります。
当院では、治療負担を軽減しながら効果を高められるように医師と心理士が連携して治療を行います。
山根さんのケースでは、まず不安と混乱でいっぱいになった気持ちを整理することを目標に抗うつ薬で気分を整えることにしました。その間のカウンセリングではトラウマには直接触れずに、「リソース・ビルディング」を行います。
リソースビルディングは日本語に直すと「資源の構築」になりますが、これまでの人生の中でのうれしかったこと、成功体験、困難だったけれど乗り越えた経験、大好きなもの、場所、歌、香り、なんでも、ご本人の力やエネルギーのもとになる「資源」を探して育てていくことを指します。
リソースビルディングは、旅にでるときに必要なものを準備するように、トラウマ記憶を処理するための準備にあたります
例えば、スキー旅行にいくときには防寒具や厚底の靴を用意したり、海に行くときに日焼け止めやサングラスを準備したりするのがトラウマ治療の前のリソースビルディングにあたります。
(次回へ続きます)