亡き母から解放された山根さんのお話 5
【花咲く物語 2】
亡き母から解放された山根さんのお話 5 前回の続きから
注)当院の患者様から同意を得た方のお話です。治療の本質には影響がない程度で、個人情報が特定されないよう適宜設定を変更してあります
EMDR技法の力には時にすさまじいものがあり、長く絡み合った心の問題が、数十分で解決していくことがあります。
EMDRで治療を進めている間に母親は逝去しますが、山根さんは通い続け、時につらい記憶の処理で涙しながらも、暗いトンネルのような記憶の処理を走り抜けていきました。
8回目のカウンセリングが終わったころから、ご表情が変わりました。何か月も通院していて、初めて笑顔が出たのです。
「母が幸せじゃないから私も幸せになってはいけないって思っていたんですが、私は幸せを探してもいいんだと思えるようになりました。母には理不尽なことをたくさん言われましたが、恨みの気持ちは不思議とないんです。カウンセリングで、精神的にも母子共同体だったことに気づけました。」
毎日昼過ぎまで起きられず、家事も夫に手伝ってもらっていたところから、部屋の掃除や洗濯、一つずつ丁寧に料理することに喜びを充実感を感じられるようになりました。
「野菜っておいしいんですね。味がわかりました。夏って暑いんですね」という日常的な報告からは、さぞや深い闇で感覚を麻痺させながら過ごされていたのだろう、と想像されました。
何年も遠慮していた学生時代の友達からの誘いにものって、出かけるようになりました。
友達との会話で「お母さん」のことが話題になっても、深く動揺することがなくなりました。
「愛情のあるお母さんがこの世界にいることをちょっぴりうらやましいと思うだけです。」
「母は自分のうまくいかない人生を恨んで私のせいにしていたんだな、と思います。母の弱さがよくわかります。でも不思議と恨みや憎しみもないんです」
「こんな風に母のことを思い出せる日が来るとは思っていませんでした。」
こうやって山根さんのカウンセリングは終わりを迎えます。
(次回へ続きます)