精神科の薬物治療とは|効果や副作用
当院では治療の選択肢として、カウンセリング、薬物療法、栄養療法などがあります。
中でも薬物療法は治療の土台、柱になるもので、薬は回復を助けてくれる強い味方となります。
精神科の薬物療法とは
精神科の薬物療法とは、精神疾患の症状を緩和し、安定した日常生活を送るために薬を使って治療する方法です。
精神科の基本的な治療法となっており、場合によっては心理療法やカウンセリングなどと組み合わせておこなうこともあります。
病院では、うつ病や適応障害、統合失調症、双極性障害、不安障害、発達障害など、さまざまな症状や病態に応じて、適切な薬を使った治療をおこないます。
種類によって異なりますが、薬を飲むことで得られる効果は以下のとおりです。
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- ざわざわしたり落ち込んだりする気持ちを落ち着かせる
- 幻覚や妄想などのつらい症状をやわらげる
- 気分の波を落ち着かせる
- 眠りが浅い・寝付けないなどの不眠症状をやわらげる
- ADHDの方に対して、集中力を高めたり衝動性をやわらげたりする
近年は、症状に合わせて処方できるよう、さまざまな種類の薬が発売されています。
上手に使って、毎日の生活を整えていきましょう。
精神科でよく使われる薬
「精神科の薬」とひとくくりに表現されがちですが、実は抗うつ薬、抗精神病薬、睡眠薬などさまざまな種類の薬があります。
ここでは精神科で使われる薬について、ご紹介していきます。
抗うつ薬
抗うつ薬とは、脳内の「セロトニン」「ノルアドレナリン」という物質のはたらきをよくして、気分の落ち込みや意欲低下を改善する薬です。[1]
薬によっては、「ドパミン」に作用するものもあります。
以下のような薬から、症状に応じて患者様に合うものを処方しています。[2]
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
| SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) |
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| SNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) |
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| NaSSA (ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬) |
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| 三環系抗うつ薬 |
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| 四環系抗うつ薬 |
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| S-RIM (セロトニン再取り込み/セロトニン受容体モジュレーター) |
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代表的な副作用は、眠気や吐き気、口の渇きなどですが、出やすさは薬によって異なります。
また、抗うつ薬の一部は、神経痛の治療やパニック障害、夜尿症(子供のおねしょ)の治療に使われることもあります。
抗うつ薬については、以下の記事で詳しく紹介しています。
抗精神病薬
抗精神病薬は、幻覚や妄想、意識低下や感情の鈍麻(無関心・冷淡)などが出る「統合失調症」という病気の治療に使われる薬です。[3]
抗精神病薬は、効果の違いによって第一世代(定型)・第二世代(非定型)という2種類に分けられます。
第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)
第一世代抗精神病薬は定型抗精神病薬とも呼ばれ、古くから使われているタイプの薬です。
鎮静効果が強く、妄想や幻覚などの陽性症状を抑える効果が強い特徴があります。
代表的な副作用は、眠気、錐体外路症状(震え・筋緊張など)、便秘、口の渇きなどです。
近年はこの次に説明する「非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)」がよく使われており、定型抗精神病薬を純粋な抗精神病薬として処方するケースは減りつつあります。
しかし、薬の特徴を生かして、補助的に使うケースは今でもあります。
| 薬の成分 (先発品名) |
使いかた |
| レボメプロマジン (ヒルナミン・レボトミン) |
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| スルピリド (ドグマチール) |
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特徴を利用して使えば、定型抗精神病薬もよい薬です。
上手にお付き合いしていきましょう。
第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
第二世代抗精神病薬は、現在おもに使われている抗精神病薬で、「非定型抗精神病薬」とも呼ばれます。
妄想・幻覚などの陽性症状に加えて、意欲低下や感情の平板化(無関心・感情が乏しくなる)などの陰性症状を抑えられるケースもあるのが、非定型抗精神病薬の特徴です。
代表的な薬を、以下に紹介します。[2]
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
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SDA |
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| MARTA (多元受容体作用抗精神病薬) |
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| DPA (ドパミン受容体部分作動薬) |
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血糖が上がりやすい、眠気が強く鎮静作用が強いなど、薬によって特徴や副作用は異なります。
睡眠薬
睡眠薬は、不眠症状の緩和に使用される薬です。
成分ごとに寝付きを助けるタイプ、睡眠の維持を助けるタイプなどさまざまな種類があり、「寝付けない」「途中で起きてしまう」などの困りごとに応じて処方する薬は異なります。
おもな分類と代表的な薬を、以下に紹介します。[2]
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
| ベンゾジアゼピン系睡眠薬 |
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| 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 |
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| メラトニン製剤 |
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| オレキシン受容体拮抗薬 |
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作用時間や副作用の出やすさに違いがあるため、体質やライフスタイルに合わせて薬を選んでいきます。
薬が合って夜しっかりと眠れるようになれば、体と心のコンディションが整います。相談しながら、自分に合う薬を探していきましょう。
睡眠薬については、以下の記事で詳しく説明しています。
抗不安薬(精神安定剤)
抗不安薬とは、不安感や緊張をやわらげる薬です。
治療のベースとして使うために定期的に飲む場合は効果が長めのもの、つらいときだけ使う場合は効果の短いものを使うなど、作用する時間・特徴によって患者様に合わせた薬を処方します。[2]
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
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ベンゾジアゼピン系抗不安薬 |
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| ベンゾジアゼピン系抗不安薬 (中間型) |
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| ベンゾジアゼピン系抗不安薬 (長時間型) |
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| ベンゾジアゼピン系抗不安薬 (超長時間型) |
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| セロトニン1A受容体部分作動薬 |
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不眠の改善や不安を抑えるはたらきを上手に活用して、行動の選択を広げましょう。
ただし、薬だけに頼りすぎずに生活習慣を見直すことも同じくらい重要です。
抗不安薬については、別の記事で詳しくご紹介しています。
抗不安薬(精神安定剤)の効果や副作用|抗うつ薬との違いも解説
気分安定薬
気分安定薬には、双極性障害による気分の波を安定させる役割があります。
代表的な気分安定薬は、以下のとおりです。
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
| 気分安定薬 |
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| 抗てんかん薬 |
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| 抗精神病薬 |
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抗てんかん薬や炭酸リチウムが使われますが、近年は第二世代抗精神病薬の一部が処方されるケースも増えています。[4]
精神刺激薬(ADHD治療薬)
ADHD(注意欠如・多動症)は、前頭葉を中心とした脳のはたらきに関係する神経伝達物質の調整に不具合があり、集中力の維持や衝動のコントロールが難しくなる病気と考えられています。
ADHDの治療薬には、中枢刺激薬と、非中枢刺激薬と呼ばれるタイプがあります。
いずれも、神経伝達物質のバランスを整えて前頭葉のはたらきを補うことで、注意力や集中力の向上を助け、症状をやわらげます。
薬の分類と名前は、以下のとおりです。
| 分類 |
よく使われる薬の一般 |
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| 中枢刺激薬 | ドパミン刺激薬 |
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| 非中枢刺激薬 | 選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 |
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| 選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬 |
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代表的な副作用は、食欲減退や悪心、眠気などです。症状や生活リズムに合った治療を一緒に検討していきましょう。
ADHDの薬については、以下の記事で詳しく紹介しています。
ADHDと治療薬|コンサータ・ストラテラ・インチュニブの効果
漢方薬
患者様の体質や症状によっては、「気の巡り」や「体力・気力のバランス」などを整える目的で、漢方薬を補助的に使うことがあります。
使うことのある漢方薬の例を、以下に紹介します。
- 半夏厚朴湯
- 加味逍遙散
- 柴胡加竜骨牡蛎湯
- 五苓散
- 神田橋処方
漢方薬は、体格や顔色、体質などによっても合う薬が異なります。
実際の処方では、漢方を煎じた液を濃縮して顆粒状にした「エキス剤」というタイプが多く使われます。
インスタントコーヒーのような粉末で、お湯や水に溶かして服用できます。 煎じる手間がかからず、手軽に取り入れやすいのも特徴です。
精神科の薬物治療で大切なこと
精神科の治療では、薬をうまく活用しながら、心や体のバランスを整えていくことが大切です。
人には本来、自分で治ろうとする「自己治癒力」が備わっています。薬には、自分の力で回復するのを助けたり、症状を軽くしたりする効果があります。
たとえば、視力の弱い方がメガネをかけると生活が快適になるように、精神科の薬も、症状による負担を軽くして日々を過ごしやすくしてくれます。
あるいは、歩くのが大変なときに車を使うと移動が楽になるように、薬も「回復するまでの道のりを少し楽にする道具」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
もちろん、副作用(眠気、口の渇き、体重増加、手の震えなど)や、薬によっては依存のリスクがあるのも事実です。
ただし、これらの副作用はすべての人に出るわけではなく、医師の指示のもと適切に使えばリスクは軽減できます。
気になることは相談しながら、無理のないペースでご自身のコンディションをいっしょに整えていきましょう。
精神科の薬物治療に関してよくある質問
精神科の薬物治療に関して、よくいただく質問にお答えしていきます。
精神科の薬を使うとやめられなくなりますか?
依存性があるものもありますが、多くの薬は安全に使用できます。
また、症状が改善したら、徐々に薬を減らしていくことも検討していきます。
ただ、自己判断でやめると、症状がさらに悪化する可能性もあるので、
不安なことがあれば、相談しながら適切なペースで調整していきましょう。
精神科の薬を飲んでいても妊娠はできますか?
精神科の薬を飲んでいても、妊娠は可能です。
ただし、薬には赤ちゃんへ影響を及ぼすものもあるため、安全に妊娠・出産をするには産科の主治医とが連携を取る必要があります。
妊娠に気づきにくい妊娠初期は、赤ちゃんの脳や臓器が作られる重要な時期です。
妊娠を考えている場合は、事前にご相談ください。
妊娠と薬については、以下の記事でも紹介しています。
薬が増えたのは病状が悪いからですか?
薬物療法をおこなう際は、最小用量から開始し、副作用が問題にならないことを確認しながら、効果が出るまで少しずつ用量を増やします。
薬の量が増えたからといっても、病状が重くなったわけではありませんので、ご安心ください。
薬と正しくお付き合いしていきましょう
精神科の薬は、上手に使えば回復をサポートしてくれる頼もしい存在です。
「怖いもの」「やめられないもの」といった誤解や偏見ではなく、正しい知識を持つことが大切です。
東京はなクリニックではシンプルな処方を心がけ、どの薬が患者様に合っているかを一つずつ確かめて、必要なだけの薬を出すようにしています。
薬についての不安はひとりで抱え込まず、医師へご相談ください。薬と前向きに向き合いながら、自分らしい生活を少しずつ取り戻していきましょう。
診療は予約制となっております。詳しくは以下のページをご参照ください。
参考文献:
[1]日本うつ病学会治療ガイドライン 2.うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害2016
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20240301.pdf
[2]今日の治療薬2025 |南江堂
[3]統合失調症薬物治療ガイドライン2022
https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/img/togo_guideline2022_0817.pdf
[4]日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
