双極性障害とは|症状・原因・診断・治療について解説
「気分の波が激しくて、自分でもどうしたらいいかわからない」
「薬って本当に効くの?ずっと飲み続けないといけないの?」
このような不安や疑問を感じていませんか?
実は、そう感じる方は少なくありません。
双極性障害(双極症)は、気分が高ぶる「躁状態」と、落ち込む「抑うつ状態」が繰り返し現れる病気です。
再発しやすいという特徴もあって、躁・うつの波が繰り返されると「ちょうどいい」自分がわからなくなって自信をなくしてしまう方もいらっしゃいます。
付き合っていくのが難しい病気でもありますが、「薬物療法によって予防」するのが治療の原理原則です。
双極性障害の症状や原因、うつ病との違い、そして治療法についてみていきましょう。
双極性障害(双極症)とは
双極性障害とは、感情の高まり(躁状態)と落ち込み(抑うつ状態)を繰り返す脳の病気です。
以前は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在は双極性障害(双極症)と呼ばれています。
気分の波が大きくなる病気です
双極性障害の一番の症状は、「気分の波が大きくなる」傾向があることです。
気分の波は、誰しもが持っています。
しかし、双極性障害の気分の波は非常に大きく、ご自身の意思によるコントロールが困難なのが大きな特徴です。
「気分が高まりすぎて夜眠らずに活動を続けてしまう」「怒りっぽくなって偉そうな態度をとってしまう」「何も手につかず仕事や人付き合いが困難になる」など、社会生活に大きな支障をきたしてしまうケースは珍しくありません。
なお、気分が高まる「躁状態(そうじょうたい)」の期間よりも、気分が落ち込む「抑うつ状態」の方が長く続きます。
10代後半から20代前半に発症するケースが多く、日本人では、500人に1~3人(0.2~0.6%)ほどがかかるといわれています。[1]
Ⅰ型とⅡ型という2つのタイプがあります
双極性障害は、主に躁状態の程度の違いにより、大きく2つのタイプに分けられます。
| タイプ | おもな特徴 |
| 双極Ⅰ型障害 |
|
| 双極Ⅱ型障害 |
|
2つのタイプに分けられるものの、どちらのタイプが「重症」というわけではありません。
それぞれの症状に応じて治療を進めることが大切です。
躁状態・抑うつ状態どちらも、放置してよいものではありません。
できるだけ早く治療を開始し、症状をコントロールできるよう取り組んでいきましょう。
双極性障害(双極症)の原因
双極性障害は、脳内にある「ドパミン」「セロトニン」といった神経伝達物質の伝達異常や、前頭葉という部分の調節機能が関連していると考えられています。
どちらも脳の機能的な問題であるため、決して本人の性格や気合いの問題ではありません。[2]
また、双極性障害の原因はひとつに決まっているわけではなく、複数の要因が重なって影響する「多因子モデル」で考えられています。
代表的な要因には、以下のようなものが挙げられます。[1]
- 遺伝的な素因
- 子どもの頃の逆境体験(家庭や学校などでのつらい経験)
ただし、個人差があるため、これらの要因があっても必ず発症するわけではありません。
なお、ストレスは直接的な双極性障害の原因ではないものの、発症のきっかけになると言われています。
双極性障害(双極症)のおもな症状
ここからは、双極性障害のおもな症状を3つ解説します。
ただし、この3つの状態に当てはまるからといって、すぐに双極性障害と診断されるわけではありません。
大切なのは、どのような経過で変化してきたか、今どんなことに困っているかを丁寧に見ていくことです。
自分に当てはまるものや、気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。
躁状態|ハイテンションで活動的
双極性障害の躁状態とは、気分が非常に高まり、活動的になることです。
具体的には、以下のような症状があらわれるケースが多く見られます。
☑寝なくても元気で活動を続ける
☑人の意見に耳を貸さない
☑次々にアイデアが出てくるが、それらを組み立てて最後までやり遂げることができない
☑根拠のない自信に満ちあふれる
☑買い物やギャンブルに莫大な金額をつぎ込む
☑知らない人にやたらに話しかける
ご本人は「調子がよい」「気分がよい」などと感じがちですが、普段のご本人を知っている周りの方からすると「明らかにいつもとは違う」というような状態です。
突発的な行動が増え、いきなり仕事を辞める、乱暴な車の運転によって交通事故を起こすなどのリスクも上昇します。
抑うつ状態|憂うつで無気力
抑うつ状態になると、憂うつになり気分が落ち込みます。
具体的には、以下のような症状があらわれるケースが多く見られます。
☑表情が暗い
☑自分を責めてばかりいる
☑涙がとまらない
☑集中できない
☑簡単な物事が決められない
☑食欲がない
☑眠れない、過度に寝てしまう
☑体がだるい、疲れやすい
双極性障害の場合、躁状態よりも抑うつ状態の方が長い期間あらわれやすいのが特徴です。
また、「うつ病」の状態とも非常に近いことが知られています。
混合状態|躁と抑うつ状態が両方出る
「躁状態」または「軽躁状態(状態としては躁だが、社会的な問題が起きていない状態)」と抑うつ状態が同時にあらわれる状態を「混合状態」といいます。
混合状態は、躁状態とうつ状態との移行期によく見られ、新しいICD-11(病気の分類)では混合状態は双極Ⅰ型に含められています。
混合状態では、以下のように感情の波や状態が安定せず、つらい思いをする方が少なくありません。
- 気分は死にたいくらい憂鬱だけど嫌な考えや焦りが次々と浮かんでくる。
- やる気は出ないのにふつふつと怒りがわいてくる
気分と行動がかみ合わないのも特徴です。
しかし、治療によってこうした状態も少しずつ楽になっていきます。
双極性障害(双極症)の診断|「うつ病」との違い
双極性障害の診断は、ご本人の症状やこれまでの経過を詳しく聞き取ること(問診)によって診断します。
そして、双極性障害の診断で特に重要なのが、「うつ病」との鑑別です。
なぜなら、抑うつ状態はうつ病と非常に似ており、双極性障害の患者さんの多くはうつ状態の時に初めて医療機関を受診するからです。
気分が落ち込んでいる状態だけを見て「うつ病」と「双極性障害の抑うつ状態」の区別を付けるのは、難しい場合が少なくありません。
双極性障害とうつ病の違いは、「躁状態もしくは軽躁状態が、現在または過去にあるかどうか」です。[1]
病気を正しく診断するために、「今までに元気すぎる時期はなかったか」「大きな買い物やギャンブルにのめり込んだ時期はなかったか」なども丁寧に確認します。
双極性障害(双極症)の治療法
双極性障害(双極症)のおもな治療法は、以下の3つです。
- 飲み薬による薬物療法|気分の波を安定させるための基本
- 心理的治療や生活習慣の調整|病気との付き合い方を学ぶ
- 持効性注射薬A-LAI(アリピプラゾールLAI)という選択肢
順番に説明していきます。
飲み薬による薬物療法|気分の波を安定させるための基本
双極性障害の治療薬には、気分の波をコントロールして穏やかにする効果があります。
出ている症状を抑えたあとに、薬を継続して再発を防ぐことも大切です。
近年の研究では、双極性障害は「視床室傍核(ししょうしつぼうかく)」という脳の部位の異常が関与しているという説があります。
この異常は脳内のカルシウム濃度や神経伝達物質(ドパミン・セロトニン)の調整に影響を与えると考えられています。
薬には、脳内のカルシウム濃度を調整するものや、神経伝達物質の作用する「受容体」に作用するものなどがあり、症状に合わせて薬を選択します。
なお、うつ病は「落ち込んだ気分を引き上げる」薬、双極性障害は「気分の波を穏やかにする」薬を使うのが、治療薬の違いです。
双極性障害の代表的な治療薬は、以下のとおりです。
| 分類 | よく使われる薬の一般名 (カッコ内は先発品) |
| 気分安定薬 |
|
抗てんかん薬 |
|
| 第二世代(非定型)抗精神病薬 |
|
薬ごとに、躁状態によく効くもの、抑うつ状態によく効くもの、落ち着いた状態を保ちやすいものなど、特徴が異なります。
飲み始めは眠気や吐き気などが出ることがありますが、続けているうちに気にならなくなる方が多いです。
また、体重増加や代謝への影響がみられる薬もあるため、気になる症状がある場合はご相談ください。
心理的治療や生活習慣の調整|病気との付き合い方を学ぶ
薬で症状が落ち着いてきたら、病気との付き合い方を学ぶ「心理的治療」をおこないます。
心理的治療では、現在どのような生活を送っているか伺ったうえで、以下のようなお話をさせていただきます。
- 適度にからだを動かす
- 食事のバランスに気を付ける
- 布団ではできるだけ「眠ること」に集中する(布団の中での勉強や食事、スマートフォン使用は避ける)
- 夕食を食べすぎない
- 刺激になるアルコール・チョコレート・コーヒーなどは控える
- タバコもできるだけ避け、少なくとも就寝前30分は吸わない
- ディスプレイによる刺激を避けるため、就寝前のパソコン・スマートフォン・TVなどは控える
- 就寝前の言い争いは避ける
- 不規則なスケジュールの勤務や夜勤を減らす
ストレスは双極性障害を悪化させやすいため、リラクゼーション法や腹式呼吸などを指導することもあります。
どのような時に症状が悪化しやすいかを振り返り、適切な対処法を知ることは、病気の再発防止・コントロールに欠かせません。
病気について正しい知識を得て、上手に付き合っていくことを目標とします。
ただし、すべての内容を一度に気を付けるのは難しく、頑張りすぎるのもよくありません。
できることから、少しずつ取り入れていきましょう
持効性注射薬A-LAI(アリピプラゾールLAI)という選択肢
アリピプラゾールLAIは、双極性障害の治療薬「エビリファイ」と同じ成分を、一定の間隔で注射し、効果を持続させる薬です。
近年注目されている新しい治療選択肢のひとつで、双極性障害において、国内で使用可能な持効性注射薬として承認されているのはこの1剤のみです(2025年6月現在)。
自分で処置をする必要はなく、クリニックで4週間に1回筋肉へ注射をおこないます。
双極性障害は、毎日薬をきちんと服用して、再発を防ぐことが非常に大切です。
しかし、症状が落ち着くと、つい薬を飲み忘れたり飲み間違えたりする方が少なくありません。
治療のベースとなる薬を注射に切り替えることで、飲み忘れや飲み間違いによる症状悪化リスクを軽減できるのが、アリピプラゾールLAIのメリットです。
なお、使用できるのは、症状が一度落ち着いて再発を防ぐために薬を使う方です。
ご希望やライフスタイルに合わせて、相談しながらご自身に合う治療法を決めていきましょう。気になる方は気軽にご相談ください。
双極性障害(双極症)の治療で大切なこと
双極性障害については、いまだに「性格の問題では?」「一生治らないの?」といった誤解や不安の声が多くあります。
ここでは、実際によくあるご質問にお答えしながら、正しい理解と安心につながる情報をお届けします。
薬物療法をしっかりと続ける
気分の波を抑える薬は、今の症状を軽くするだけでなく、次の波を防ぐ役割も担っています。
「調子がいい」と感じて自己判断で薬をやめてしまうと、重い症状が再発する可能性も少なくありません。
双極性障害は、再発を繰り返すと調子のよい時期が短くなっていく可能性があるといわれています。すべての治療が終了するまで、しっかりと薬は続けていきましょう。
なお、「副作用がつらい」「薬を飲むのが大変」などの場合は、薬の変更を検討する場合もあります。1人で悩まずに、ご相談ください。
家族や職場などの周囲と連携を取る
双極性障害では、ご家族や職場などの理解とサポートも治療の一部です。
具体的には、以下のようなサポートをお願いするケースが多いです。
- 気分の波は性格ではなく、病気が原因であると理解してもらう
- 普段と違う様子が見られた場合、再発の可能性があるため本人や医師へ伝えてもらう
- 服薬を続けられるよう、見守ってもらう
- 再発や悪化を防ぐための生活習慣作りに協力してもらう
周りのサポートも受けながら、病気と向き合っていきましょう。
双極性障害(双極症)についてよくある質問
双極性障害(双極症)について、よくある質問にお答えしていきます。
双極性障害になりやすいのはどんな人ですか?
双極性障害の原因は明らかになっていない部分も多く、「このような人はなりやすい」と断定することは困難です。
ただし、家族に双極性障害の患者さんがいる方や、普段大きなストレスを抱えている方などはなりやすい傾向があることがわかっています。
双極性障害は治りますか?
双極性障害は「完治」を目指すより、症状をなるべく小さくして再発を防ぎながら、上手に付き合っていく病気です。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患などと似たようなイメージを持っていただくと、分かりやすいかもしれません。
薬を適切に使うことで、気分の波を安定させて自分らしい社会生活を送ることもできます。
多くの患者さんが仕事や家庭生活を送りながら治療を続けています。いっしょに向き合っていきましょう。
双極性障害(双極症)と向き合うために
双極性障害は、気分の波が大きくなり、生活に支障をきたす方が少なくありません。理解と適切な治療によって、安定した日常を取り戻していくことが可能です。
双極性障害の治療薬には、今のつらさを軽くするだけでなく、次の波を予防するという大切な役割もあります。
毎日きちんと飲むのが難しい方には、注射で続けるという新しい方法もあります。治療は一人で頑張るものではなく、ご自身の状態やライフスタイルに合わせて、考えていきましょう。
当院では、できるだけシンプルな処方を心がけており、必要な分だけの薬を出すようにしています。
多くの治療選択肢の中に薬物療法もいれていただき、薬も含めて「あるもの」を上手に活用してコンディションを整えていただきたいと考えています。
診療は予約制となっております。詳しくは以下のページをご参照ください。
参考文献
[1]日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023|日本うつ病学会
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
[2]久保田泰考,双極性障害の認知研究―成人と児童,日本生物学的精神医学会誌 21(3): 213-216, 2010
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/21/3/21_213/_pdf/-char/ja
執筆・監修
こちらの記事は、下記の精神科医が執筆・監修しております。
興梠真紀(こうろ まき)
- 役職:東京はなクリニック院長
- 資格:精神保健指定医/日本精神神経学会認定専門医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント
- 学会:日本精神神経学会
